2024年夏 剱合宿報告

1)はじめに

①総括

いままでの練習会を経て、本番の山行に行ってきた。

4日間の日程で源次郎尾根しか行くことができなかったが、それがパーティーとしての実力と思っている。現場では参加者それぞれ相応の努力をした。だから現段階ではこの結果が妥当だと思っている。

この山行で参加者はそれぞれに課題を見つけたと思う。

そのことを忘れず、対策を講じ、そして実践し、次のよりステップアップした山行につなげることができたら、合宿をした価値がある。

全ての山行は次の山行につながるもののはずだから。

 

②出発まで

昨年に引き続き、剱沢の雪は少ないと聞いていた。

そのため富山県警に問い合わせをしていた。そして県警の「X」で状況を把握した。

それらの情報をもとに、長次郎出合の雪の状態は悪く、かつそれをやり過ごしたとしてもその先のガレ場通過にかなりの時間がかかると考え、当初の計画で考えていた熊の岩まで登ることはとりやめ、剱沢をベースにした。

実際に現地で雪渓の状態を見ると、以前の9月中旬くらいの感覚だった。

すなわち、平蔵谷はズタズタ。そして、6峰あたりの雪渓は細く、ほとんどがガレ場だった。

8月頭でこれなら、これから先はどうなるのだろう。

 

2)日程など

【日程】   2024年7月31日(水)~8月3日(土)

【メンバー】 Yナ、Ⅰ橋マ、H網、H本ミ、A

    

3)報告

①7月31日

・コース

立山駅から始発ケーブル+バスで室堂。

室堂8:30出発。剱沢キャンプ場12:30

・行動詳細

梅雨明け前の室堂からスタート。

 

行く手に見える雷鳥坂は半分雲の中である。

 

平日だけあって、雷鳥沢キャンプ場にもテントは少ない。

雷鳥坂の苦しい登りを終え、御前乗越に到着。依然として剱は拝めない。

 

 

そして剱沢。やっぱり剱は雲の中だ。

 

着いたのは12:00ごろだったろうか。

小屋まで降りてビールを購入。入山祝いをした。

 

②8月1日

・コース キャンプ場4:00発~源次郎尾根取付5:45~Ⅰ峰10:00~Ⅱ峰11:00

剱山頂13:15~剣山荘~キャンプ場18:00

・行動詳細

平日だから人は少ないだろうと踏んで、遅めに出発。

歩いていたらじきにヘッデンの要らない明るさになった。

 

 

剱沢のスノーブリッジ。やはり雪渓の雪は少なくて、しかも薄い。   

 

源次郎取り付き。 ここに来るまでは剱沢右岸にある踏み跡を利用する。      

青囲みが目印となる三角岩。その右の赤線下に踏み跡がある。

 

取り付きから振り返る。

 

赤囲みあたりまで右岸の踏み跡は存在する。

 

取り付きから50mほど上がったところに湿っていやらしいボルダーチックな岩場(第一核心)がる。そこをH網が果敢に攻め、あとのメンバーは確保付きで続く。

 

そのあとは、下のような湿ったルンゼになる。濡れているので気が抜けないところ。

 

第二核心。

第一核心から20分ほど上がったところに、岩場が出てくる。

この岩場は二段になっていて、下はロープ無しでもいけそうだが、万全を期してロープを出した。ここもH網が果敢に登っていく。

 

H網はその勢いで二段目も突破し、後続をビレイ。

 

第二核心を上から見る。

 

ここまで唯一の後続パーティーはここで撤退したようだが、私たちは全員越えた。

 

この先尾根は穏やかになっていき、展望も広がってくる。

 

キャンプ場も遠くに見えている。  

 

以前ここはロープ無しで登った記憶があるが、クラック内が湿っていたので万全を期し、ロープを出し、またまたリードのH網以外は全員、登高器でクリアした。

 

こんな気持ちの良い岩稜を登っていく。

左上に見えるピークは源次郎尾根Ⅰ峰。

下に広がる岩壁は源次郎Ⅰ峰平蔵谷側フェース。

 

成城大ルートや名古屋大ルートがあるところだ。

 

Ⅰ峰頂上で記念撮影。

 

Ⅰ峰からの八ツ峰と長次郎谷右股上部。

八ツ峰が切れ落ちているところがⅤ,Ⅵのコル。

その左がⅥ峰のフェース群。

一番右がAフェース。影のところにBフェースがあり、一番広いCフェースに続き最後にDフェースが鎮座する。 

画面左側下、雪がたまっているように見えるのが熊の岩のビバーク地だ。

 

誰もいないが。

 

それにしても雪が少ない。

自分が学生の時(40年前!!戦前ではない)に初めてⅥ峰フェースを登った時は、雪渓のシュルンドを2mくらい降りて取り付いた記憶がある。

それに比べたら全然雪がない。あるのはいやらしそうなガレ場登りだ。

 

Ⅰ峰を越えて、軽く降りた後はⅡ峰の登りが始まる。

実に気持ちの良い岩稜、と書きたいところだが、実に暑い。

水分がどんどん吸収され、みんなが持っている水もどんどんなくなる。

 

昨日とは打って変わった晴天。あとで知ったが、この日が北陸地方の梅雨明けだった。

 

暑いけど、みな黙々と登っていく。

 

そんな中、おそらく「彩雲」が目(だけ)をひと休みさせてくれる。

 

これが有名なⅡ峰の懸垂。

 

今回50mロープを二本持ってきたので、余裕で懸垂できた。

 

頂上に向かう苦しい登り。

 

時間的には1時間半くらいの辛抱だが、頂上がはるか高くに見えるので精神的にはつらいところ。

 

この顕著な凹角を越えれば頂上は近いのだが、それでもなかなか着かない。

 

そして念願の頂上へ。

 

赤塗りの下にはとっておきの笑顔が隠れている。

 

下りだからと言って、剱は甘くない。なにしろ「一番難しい一般道」だから。

 

通称、カニの横ばいを進む。

 

超絶な暑さのため、登り始めてから早々に水の心配をしないといけなくなった。下山の途中で水が枯渇した人もいた。

それでも剣山荘の水場を目標にして頑張った。

荘に到着したとたん全員が蛇口に向かった。

そして、がぶがぶ音をたてて水を飲んだ。

生き返った気分だった。

水を得て、元気になったあと、キャンプ場に至る、なかなかしんどい登りの坂道を越えようやくテントに戻ってきた。

 

②8月2日

昨日テン場に戻ってきたのが18:00くらいだったので、この日はレストにした。

私はハイマツの陰で雷鳥のように昼寝をしていた。

女性陣は剣山荘に行ったりして楽しんだようだ

その中から写真を。

 

日焼けが気になる女性陣はツエルトで日陰を作りお休み。

 

さながら(太陽からの)難民キャンプ。

 

これが特筆すべき剣山荘の「牛丼」。こんなものが山で食べられるなんて!

 

ちなみに剣山荘の横には真新しい携帯基地局があって、ネットもつながる。

これも時代か。。。

 

③8月3日

下山の日。

相変わらずの晴天の中、剱に別れを告げ、室堂に向かう。

 

雷鳥坂下部からキャンプ場を望む。

 

梅雨明けでテントの数が増えている。

 

そしてゴール!!  赤丸の下はもちろん!飛び切りの笑顔だ。

 

4)各自の感想

Y

剱岳へご一緒下さいました皆さん、ありがとうございました。

正直、直前まで不安と緊張しかありませんでした。

みんなの足手まといになるに違いない、迷惑かけるだろう…辞めると言うべきか。

毎日そんなことを考えていました。

ある日、気持ちが切り替わるきっかけがありました。

S山さんが剣を断念されたこと。

Y1号さんの事故。

登りたいのに登れない方がいる中、私にはチャンスが与えられてるというのにそれを無駄にするのか。

そう考えた瞬間、よし行く!

迷惑かけたっていい、登る!と決心がつきました。

しかし、剣への道は険しく厳しかった。

高山に不慣れですぐに息は上がるし、重い荷物を背負ってのガレ場の下りは神経使ってクタクタに。先輩方の励ましは有り難かった。

源次郎尾根から山頂へ登り詰めた時はこの上ない喜びで感激の涙が出ました。

みんなで手を握り合って一緒に喜んでくれたこと、忘れません。

翌日のレスト日にようやく広大な山の風景やお花の鑑賞を楽しむこともできました。

今回は自分を知るという、貴重な体験と先輩方の登り方、歩き方、持ち物などを拝見させて頂き、大きな学びとなりました。

少し自信もつき、もっと!と意欲も湧いてきました。

これも皆、A山リーダーはじめ、トレにご一緒くださった皆さんや今回一緒に登ってくださった皆さんのお陰だと感謝しています。

ありがとうございました!

 

H本ミ

剣岳源次郎尾根にどうしても行きたくて、剣練習会に手を挙げた。

源次郎尾根は34年前の春にルート間違え、前剣東尾根から2峰を懸垂下降する人を見て以来、その後何度か行くチャンスも逃し、ずっと心に引っ掛かっていたルートだった。

当初源次郎はA山さんと二人で登る予定だったが、記録的な雪不足で熊の岩から全員が剣沢ベースと変更になり、5人全員で目指すこととなった。

ハイマツ混じりの木登りや岩稜帯を登る源次郎は、私にとってとても楽しいルートだった。

真っ青な空の下、後を振り返れば鹿島槍が見え、すぐ右には八峰の岩峰群。

そしてラストは誰もいない剣岳山頂へ。

入門ルートとはいえ、アルパインの気分を十二分に味わえる素晴らしいルートだった。

そして今回5人で登頂を分かち合えたことが、私にとって何よりも嬉しかった。

昨年10月にスタートした剣練習会。このプロジェクトを立ち上げ推進いただいたA山さんにまずは感謝したい。

そしてできる範囲でもうしばし、何らかのルートを目指せたらと今は思っている。

 

H

当初、今回の剱は、熊の岩で何日もビバークし、六峰岩登り三昧の予定でした。

数年前、初めて六峰Cフェースに行って以来、そんなふうに雪の中で過ごすのはちょっとした憧れでした。が、しかし、雪解けは早く雪渓も割れてかなり難しいとの情報がはいり、急遽、六峰は止めて、5人で源治郎尾根をのぼることになりました。源治郎尾根もまた、初めての引率リーダーで駆け抜けるように歩いた思い出深いルートです。

さて、平日でそれほど混まないであろうと考え、ヘッデン歩きのアプローチはせずゆっくり目のスタート。真砂沢へ通じる登山道は思ったより悪い。悪路を早く確実に歩く力が衰えたと感じる。が、木登りやちょっとしたアクセントのクライミングは、すごく楽しいし、尾根にでれば絶景が待っています。

途中、八峰のほうを見やると、長治郎谷は長い長いガレ場、六峰の取り付きもガレガレ。

雪のない急斜面は恐ろしく立っているように見えます。数年前はるんるんで登ったはずなのに。おなじころ、長治郎谷を登ったパーティもいたようですが、とてもじゃない。温暖化で年々状況は厳しい。いつかまたいけるのだろうか。

少し時間はかかりましたが、無事に剱岳へ登頂。それから始まる長い長い下山路。

暑かった! 初めてのメンバーも本当によく頑張りました。感激を共にできて良かったです。長かったような短かったような半年間の練習を振り返り、監督に感謝。

長時間歩ける強靱な体力、バランス、注意力、ルートを見通す力は、アルパインをする上で何よりも要。これから何年このような山登りをできるかわからないけれど、基礎をきちんと押さえ、身も心も万全の準備をする、これしかないと思います。

A山さん、ご一緒してくださったみなさん、ありがとうございました。

  

I橋マ

昨年から皆で剱岳に行こう!と始まった練習会。

私は、剱岳八ツ峰を希望しました。振り返ると大勢での練習会もとても楽しいものでした。

剱沢小屋のテント場を目指して近づくにつれ、昨年の残雪との違いを感じる。

テントでの夕食時、皆で話し合い1日目は予定していた八ツ峰ではなく源次郎尾根にして、翌日を本峰南壁にすることになった。

私は昨年も源次郎を登っていたので、私の体力では2日続けては厳しいなと南壁の登攀は諦めて今日の源次郎を楽しもうという気持ちに変わりました。

源次郎バリエーションルートへ

高度感のある懸垂下降、コルを下り再び登り返しながら、足場の悪い岩稜帯のぼり、剱岳本峰に到達する。クライミング、ロープワークが必要で後半は体力勝負のルート。

前回は2名でアブミも使用してリードで登りましたが、今回はH網さんがリードしてくださるのと、昨年の経験のおかけで気持ち的には余裕をもって楽しむ事が出来ました。

終始晴天の中、登ってきた道を振り返ると遠くに見える山々と、綺麗で壮大な眺望。

後から登ってくる仲間と、その景色交互に見回し、心地良い風を感じながら、深呼吸を幾度となく繰り返す。しんどい道中も贅沢な癒しの時間でした。

30メートルの懸垂下降が終わり、ここからは縦走のみ。

炎のランナーH本ミ先輩が「この先は自分でルーファイしたい」と先頭を。。。

ありがたい。でもペースについていけるだろうか。。

案の定私は、A山監督に見守られながら後ろをついていく事となりました。

本峰に到着した時の疲労感、充実感、皆と達成感を共有出来て本当にうれしかったです。

テント生活や、皆で過ごした剣岳の経験はやっぱり楽しかった。

そして来年こそ、八ツ峰に行けるように、目標をもって頑張りたいと思います。

企画してくださったA山監督、ご一緒頂きました皆様、かけがえのない時間をありがとうございました。

 

5)番外

下山後、全員でお寿司を食べた。

 

とてもおいしく、再び飛び切りの笑顔になった。