白馬から日本海

秋山 泰秀

白馬山頂から西方向。右から毛勝、剣、薬師

親不知の海岸で

 

1)概要

①全体

「白馬から日本海」 この響きにあこがれていた。

2年前にも親不知まで来た。

しかし、時は4月。親不知でもなかなかに寒く、よく考えると上では相当の雪だと思い、断念して逃げ帰った。

今回、6月に再トライすることにして、高島トレイルの縦走で練習した。1泊と2泊だ。

加えて軽量化のための装備のテストもした。また、行動食の摂りかたも変えた。

正直言って、そこまでするルートではないかもしれないが、今年で前期高齢者となった自分を考えると慎重をすべきだと思った。

そして本番。

この上もない天気に恵まれ、完全縦走することができた。正直うれしい。

 

②コース概要

6月4日(火) 大阪から親不知道の駅へ移動。車中泊。

6月5日(水) 親不知から電車とバスとゴンドラで栂池自然園。そしてスタート。白馬大池小屋前でテント泊。

6月6日(木) 朝日岳手前でテント泊。

6月7日(金) 栂海山荘泊。

6月8日(土) 親不知下山。タクシーで道の駅へ移動。

 

③ 全体感想

・朝日岳以北より、朝日岳まで、つまり二日目が一番辛かった。

つまり、栂海新道そのものより、白馬から朝日岳までが辛かった。

・その理由

登山道にマーキングはほとんどない。(雪で隠れていた可能性あり)

そのため、雪が切れたら登山道を探すのだが、登山道の入り口が、雪で押し倒されたブッシュで隠れていたりして、見つけるのに苦労した。特に、雪が豊富にあるとき、雪の上のほうが歩きやすいので、どうしても安易に進んでしまって登山道から離れる場合があった。

 

④雪の量(推測有り)

自分が思ったよりは多かった感覚。

先日、穂高の稜線をみたとき少ないと思っていたが、それに比べると多い感覚。

 

⑤水マネジメント

この時期、標高が高いところでエアリアマップに水場マークが出ているところは雪に埋まっていると考えたほうがよさそうだ。実際は

・白馬大池では夏の小屋導水と思われる流れを利用。

・湿地帯(夏は)にところどころ出ている流水を利用。

の二か所を利用した。

特に栂海山荘に登り返す最後の水場は、雪で全くアプローチできなかったので、登山道に覆いかぶさっている雪渓の末端からしたたり落ちている水を集めた。 

   

⑥装備

・アイゼン

実は軽量化のために、軽アイゼンにしようかと思っていた。実際に行ってみると、昼間は雪が溶けて大丈夫でも、朝早くは雪が固いので、軽アイゼンでは心もとない。

・シュラフ

これも実は軽量化のために、スリーシーズンで行こうとしていた。

ただ、テストパッキングで厳冬期用シュラフを入れてみたら、水なしで13kgだったので、これならと思い厳冬期用を持って行った。

・ピッケル

持参しなかった。

三日目は絶対に「重り」になるだけだし、ストックでもかなりのところまで大丈夫なのは経験済みなので持参しなかった。

・コンロ

高島トレイルでの実績をもとにジェットボイルを持参。

帰宅していつもの通り、ガスの減りを計ったら、山行前と比べて有意差がなかったことに驚愕。つまり自宅のキッチン秤だと、重さが変わらなかったということ。

   

2)報告

☆6月5日(水)

ログから。

※今回常に省電力モードでログを取っていたので、直線部分が多ければ多いほど、距離は正確ではない。

知~電車~平岩駅~バス~南小谷~タクシー~ゴンドラ下~ゴンドラ、ロープウエイ

~栂池自然園駅~歩き~白馬大池

 

ゴンドラの中。

栂池高原の様子を眺めていて、なにやらツエルマットの街がフラッシュバックしていた。

ゴンドラに乗るのも同じだ。でも見える景色は実に日本らしい。

  

栂池自然園でロープウエイを降り、ビジターセンターで計画書を提出し、歩き始めるといきなり残雪。

なにやら調子が上がらないまま、白馬乗鞍に登っていく。

平日だがトレースがあるので、たんたんと歩く。

 

 

白馬乗鞍のでっかい石柱。

そして白馬大池に到着。

見た通りテントは一つ。つまり一人きりだ。

トレースをつけてくれた先行2パーティーが池から見えたが、上に向かっていて、じきに見えなくなった。彼らも日本海を目指すのだろうか。

 

この日は10時に歩き始めて、13時前には到着していたのだが、テントを張って銀マットを敷いて横になって寝てしまった。本当はもっと先まで行きたかったが、何故か身体が疲れていた。

こんなんで日本海までいけるのかと思った。外は日差しが燦燦としていて、テント内も暑いくらいだった。

結局、16時まで昼寝して、ごはん食べて17時前には寝てしまった。

晩御飯は残ったおにぎりで済ませたので、お湯も沸かさず、お酒も飲まず、ラジオも聞かず、ひたすら寝た。相変わらず日差しは暖かい。

 

☆6月6日(木)

白馬大池を3時15分に出て、朝日岳の手前にある赤男山の西、エアリアで「常水」と記載されているところまで。今回の山行で一番つらかった日だ。

 

まずはログを。

ログを見てわかると思うが、直線のところがあまりない。

つまり現在位置確認を頻繁に行ったということ。それくらい道の特定に神経を使った。

ちなみにこの日の終わり、携帯の電池残が10%を切った。

 

これから後にも10時間行動があったのだが、この日ほど電池は使わなかった。

昨日はずいぶん寝たものだ。

朝2時半に目が覚めたときにこんなことを考えていた。

さてどうするか。二度寝するか、起きてしまうか。逡巡の挙句、起きることにした。

なにしろ今日の行程は見えないくらい長いからだ。

 

起きて出発の準備をしていると、冬山との違いをふと感じた。手の指が冷たくないのだ。

冬山ではいつも冷たくなるのが怖かった。特に昨年2月の赤岳で指が軽い凍傷になってしまってから指の冷たさは悩みのタネだった。加齢もそれに相当影響しているからもある。

 

でも冷たくならない。

念のため、VBLのゴム手袋をはめ、テントを片付ける時にはその上から防寒テムレスをはめる。

全然冷たくならない。

やはりこんな山でも初夏なんだと感じる。と同時にムラムラやる気が出てきた。

 

時間も4時近くなれば、ヘッデンは要らなくなり、そのうち朝日が上がってきた。

 

天気は上々。真っ白な白馬大池を望む。向こうの山は多分火打と妙高だ。

小蓮華を越えると後立山オールスターが見え始める。

三国境ちかくのガレ場にザックをデポして、頂上を目指す。

白馬から下ってくる人を一人みかけた。

彼も日本海を目指すのだろうか?

 

そして白馬頂上。

天気はすこぶる良い。

 

まずは西側。

右から毛勝、剣、薬師だ。毛勝もいつか行かなあかんなと思った。

 

そして南側

唐松、五龍、鹿島槍の後立山オールスターだけでなくずっと遠くに槍の穂先も見えている。

肉眼では前穂北尾根もはっきり見えた。

 

下山にかかり、デポ地に向かった。道のないところにデポをしたので、できるだけ道を使ってここかなと思うところからトラバースしていった。そうしたらドンピシャだった。

思わず口から「ぴったり~」と大きな声が出た。

 

こういうのを山勘と言うのだろうか。

私は、山を続けていると研ぎ澄まされてくるこの感覚を山感」と思っている。

 

途中雷鳥を見かけた。

 

足は冬毛、身体は夏毛。今の季節にぴったりの姿をしている。

雪倉岳への登りでも見かけた。

後ろに見えるのは雪倉避難小屋。

一番最初の計画ではここに宿泊することも考えていたのだが「あくまでも避難小屋なので、計画でここに泊まることを前提にしないでほしい」という文言があったので、宿泊は避けた。雨ざーざーなら使ったかもしれないが。

 

雪倉の先で、登山道は大きく東を迂回する。稜線を忠実に行くと断崖があるからだ。

 

これが結構な距離の迂回で、稜線に戻るとき雪面を大きくトラバースすることになる。

ここはさすがにアイゼンをつけた。

 

この雪倉岳、お花畑が本当に多い。ういえば花の百名山にもあったような気がする。

普段お花にまったく興味のない私でも思わず撮ってしまった。

相変わらず花の名前は憶えていない。

大きく東に迂回したあと、今度は西の山腹をトラバースすることになる。

ここが大変で、稜線とは違い、雪がたっぷり残っている。西面だから当然なのだが、道を探すのに苦労した。

 

「面倒だからこのブッシュを突っ切ってしまえ」と思う自分がいるのに、ふと気づく。

冷静な判断ができなくなっている証拠だ。これではいけない。

加えて、スマホの電池残量10%のアラームも出た。

 

この時点で13時過ぎ。

まだ時間はあるし、明日がしんどいだけなので、このまま進むか、このあたりでテン場を探すか悩んだ。

しかし、

・判断が怪しくなっていること。

・スマホの電源が無くなると、登山道を正確に見つけられない可能性が高いこと。

・ちょうど、流水が出ているところを見つけたこと。

 

もちろん最後のポイントが一番大きかったのだが、比較的平たんな雪の上でテントを張ることにした。

☆6月7日(金)

縦走三日目。

 

ログから。

朝日岳以北は直線が多くなっているのが如実にわかる。

標高が低くなってきて、雪が少なくなり、道の判断する回数が少なくなっているからだ。

計画では朝日小屋を通ることになっていた。

しかし昨日のうちから、それはしないことを決めていた。

朝日小屋に行っても、まだ開いてないからちゃんとした水場もあるわけもなし、それに西側をトラバースしないといけないので、またアイゼンのつけ外しだけで時間がかかる。

ここは迷わず稜線通しの道を選んだ。

 

それでもルーファイには悩んだ。

雪は相変わらずだし、登山道の入り口も不明瞭。

 

いきつ戻りつしながら、ようやくここにたどり着いた。

たおやかな頂上を持つ朝日岳。

 

そして頂上。

山頂から南側を振り返る。

顕著なピークが雪倉岳。

そのちょうど下にある黒々としたところが断崖になっているところ。

ここを大きく東(左)に巻くのがルート。

 

これから先の山を撮る。

たおやかな山が続いていて、なんだか安心した気分になる。

 

その気分のまま、雲海も撮ってみた。

朝日岳の下にあるのが吹上のコル。

栂海新道には、こういう看板が設置されている。たぶんさわがに山岳会の人が作ったもの。

 

アルミの板に地名を穴をあけて作ってある。

途中登山道に復帰するために、30mほどブッシュを突っ切った後、ふと見たらストックの先が

 

抜けてなくなっていた。

黒岩平に続く雪面。

このあたり雪も柔らかったので、アイゼンなしで歩いていた。。

 

ところが。。。

ふとした弾みにスリップしてしまった。

ほとんどスピードは出なかったが、みたとおり長い斜面で距離が出そうだったので、先の先のないストックを雪面に突き刺して止めた。

 

この黒岩平付近。水芭蕉の楽園になっている。

 

これだけ大きい群落を見たのは初めてだった。なにしろ登山道の上までも水芭蕉が咲いている。

この足跡もよく見かけた。

 

偶蹄類なので、たぶんニホンカモシカ。

この日は栂海山荘のすぐ近くの水場で、補給しようと思っていた。

地図に水マークがあったところに着くと、大きな雪渓に道を阻まれた。

ここから西に下れば水場にいけると思ったが、おそらく雪で埋もれているし、雪渓の傾斜も強く、そこに行くならアイゼンがいるなあと考えていたら、雪渓の下からちょぼちょぼ水滴が落ちているのをみた。そこでシェラカップとお皿でそれを受け、水を集めた。

 

昔もっと少ない水滴で水筒を一杯にしたことがある。

それでも何分かかるのかわからなかったが、水を飲みながら行動食を食べながら待っていると、20分くらいで十分な水が補給できた。

 

そして犬が岳に向かう。栂海山荘が近くになってきた。

それまでも稜線のはるか向こうにみえていたが、間近に見えたのは初めてだった。

思わず口から出た言葉は”Nice to meet you

 

 何故英語だったのかは私にもわからない。

犬が岳の三角点。

 

指で犬を作っているつもり。キツネだけど。

そして栂海山荘。

歩いてきた稜線はガスに包まれている。明日の天気は大丈夫だろうか。

小屋内部。ここで炊事をする。

寝たところ。今日は貸し切りだ。

 

毛布を一杯使って、下に敷いた。ちなみに協力金として2,000円をポストに入れた。

この日は快適なはずなのに、何故かなかなか寝付けなかった。

 

日が暮れて小屋から北を望むと、糸魚川の街の灯が見えた。

☆6月8日(土)

いつものとおりログから。前半は直線が多い。しかし最後のほうではちょくちょく現在地確認していた。まだかまだかという気持ちがそうさせた。

昨日も寝付けなかった。

あまり寝れなく、2時に目が覚めた。いくらなんでも早いので2時半起かなと思っていたら

寝てしまったようで3時半に目が覚めた。あわてて準備をして4時に出発。

既にヘッデンは要らない明るさになっていた。

 

そんななか、朝日が上がる。

なんだか心に余裕が出てきたので、花の写真を撮った。

この花も結構見かけたが、名前はわからない。正確に言うと(調べる気がない)のだが。

 

途中の下駒ケ岳の山頂。なんの変哲もない写真だがわけがある。

・ここに南から登るのに、相当の急登があること。

  いっぱいフィックスロープがかかっている。

・その登りで久しぶりに人に会ったこと。

  トレラン姿のおばちゃんだった。

  

今日は土曜日だ。ここいらあたりから人とすれ違うのが多くなった。

 

白鳥小屋。

この小屋、目立つところに立っているので、栂海山荘からも良く見えた。

といっても、徒歩4時間の距離にあるので小屋の輪郭だけだが。

 

この先、すれ違う人が多くなった。私の大きな荷物をみて、時々「どこから」と聞かれた。

「白馬から」と答えると、びっくりするので、おもしろかった。

 

そして最後の水場。シキ割。お腹がちゃぷちゃぷするくらい水を飲んだ。

坂田峠に手前にある舗装された林道。

すれ違う人たちは、これを左に降りたところにある駐車場から登ってくるようだった。

 

終わりが近づいてくるとうれしいはうれしいが、どこか寂しくなってくるのが常だ。

これも多分さわがにの人が作った看板。

 

ここは旧北陸道のようだ。

入道山を過ぎ海に近づくと、目の前に海が広がった。

 

独りで「海や~、海や~」「青い海や~」と盛り上がっていた。

この坂田峠から日本海に続く道。道としては全然面白くない。

ただ

・海が見えること

・日本海に向かっている気持ちになってくる というところは、利点だ。

栂海新道を使っている人しか思わないと思うけど。

 

そして、道路に出た。

この標柱。2年前にも見ていた。やっとこさここに歩いてこれたという思いがした。

 

駐車場の奥から、海岸に向かう。つづら折りの階段を下りたら、その先に大海原が広がっていた。

もちろん手をひたす。

 

冷たすぎることもなく、生ぬるくもなく、ちょうどよい手触りだった。

このあと、タクシーを呼んでおよそ一時間後に駐車している車に戻った。

 

そして、まずはグーグルマップで立ち寄り湯を探して、4日分の垢を落とした。

偶然見つけたこの温泉だが、なんとかけ流しだった。