宮崎クライミング遠征 part 1

記録:A

1)計画概要

①メンバー

 Y村さん、A山パーティー

 チームH網(Pさん、S水さん、I垣さん)

②スケジュール概要

 2022年11月2日夜のフェリーでA山以外のかたがたが別府入り。A山は陸路大阪から別府に事前移動し、全員を迎える。

 別府からレンタカーとA山号に便乗して現場に移動。11月3日、4日、5日とクライミングして、5日夜のフェリーで帰阪。A山は九州周遊後帰阪。

 以下報告は、Y村さん、A山パーティーのものとなります。

 

2)11月3日 第一スラブ試登

①コンセプト

 別府から移動して現地に到着したのが13時を回っていたので、駐車場から近いところ、しかも時間を15時で切って、その時点で懸垂下降することと取り決めて取り付いた。

②アプローチ

 トイレのある駐車場の少し川上側、擁壁のすきまから登っていく。するとすぐに下部岩壁が現れる。そこで支度をして取り付く。

③登攀

・1ピッチ目 A山リード 20

 多少ランナウトしているが問題なし。

・2ピッチ目 Y村リード 20

 同上。

・3ピッチ目 A山リード 25m

 上部岩壁の下まで5mほど左上に移動してから取りつく。水、食料、靴はここにデポしていくことにして、荷物は最小限にする。登り始めからザックはひとつにして、フォローが担ぐことにしていたが、デポしたことでかなり楽になった。ルート的には相変わらずランナウトしているが問題なし。

・4ピッチ目 A山リード 50

 ここからこのルートの本領がはっきされるようだ。リッジに沿って登っていくがピンが少ない。途中グージョンが一本あっただけ。あとはカムとナッツで対応。

 50mロープではぎりぎりになり、最後はY村さんにA山の60mだけでビレイしてもらう。

④下降

 4ピッチ終了したのがちょうど15時だったので、懸垂を始める。懸垂最初のピッチの岩の形状が複雑で、A山懸垂中にロープが引っかかる。懸垂しているロープ一本にロールンロックでセルフをとり、そちら側をY村さんにビレイしてもらって登り返し、その引っかかりを取り除く。そのあとの岩は複雑ではないので、問題なく下降。

⑤帰着

 H網さんのつてで手配した「庵」にてチームH網の帰りを待つ。暗い中懸垂したみなさんが帰着し食事。お風呂は五右衛門風呂だ。そして就寝。

 

3)11月4日 ニードル左岩稜

①コンセプト

 今回宮崎で一番登りたかったルート。それに向けての作戦は

 ・ザックは一つにしてフォローが担ぐ

 ・荷物は最小限

 昨日、靴の重量が大きかったので、秋山はクロックスで歩くことにした。

 ※この判断は賛否が分かれる部分であるが、結果的には問題なかった。

 

②アプローチ

 5時に起床。昨日と同じトイレのある駐車場に向かう。駐車場から川上方向に戻ったところの階段から登る。

 

 千畳敷の展望台から、少し登った右側に、マーキングがあり、その先のフィックスをたどっていくと、最後にこの看板がある。

この看板のすぐ右横上には、特徴的なダブルフレークがある。これはニードル左岩稜スーパーなのでこの右だ。フレークの右の垂壁にグージョンが打ってあった。


報告を書いていて、いまさらながらに思うのだが、このルートのグージョンは、プロテクションというより目印だ。ここを登るんやで!というかんじ。だから本当に最小限しか打たれていない。

 

 私たちが到着して、準備をしていると、まもなく後続がやってきた。本日の1番目を確保できた。頑張って5時に起きてよかった。


③登攀 7時にクライミング開始。(今回リードはすべて私。グレードは「新版」日本の岩場より)

・1ピッチ目(Ⅳ) 25m

 見た目は悪い。朝からこれかと思うとげっそりする。でも、なんとかなる。ただし、目印のボルト以外は、すべてカム。

 

・2ピッチ目(5.8) 35m

 下部核心。フレークをレイバック交じりで登るのだが、このフレークにはなんと二つもカムの残置がある。それでずいぶん助かった。おまけにフレークを抜けたあとには「目印」のグージョンボルトがある。おかげで精神的な辛さはほとんどない。フレークから抜け出す一歩が難しかった。ちいさなハングを超えた上でビレイ点を探すも、どこまで行ったらいいのかわからないので、太い枯れ木のあるところでピッチを切る。

・3ピッチ目(5.8の続き) 10m

 登り始めると10mくらいでちゃんとした支点があったので、短いけどそこで切った。後続がぴったりついてきているのが気になる。上にはニードルのピークに向けてそそりたつハンドサイズのクラックが続いている。クラックの経験が乏しいので気は重い。

・4ピッチ目(5.7) 40m

 正規のビレイ点からスタート。とにかくハンドサイズが続くので、最初見たときには本当に登れるか自信がなかった。

 ただ、フェースにもホールドがあるので、見た目ほどジャミングは使わない。確実なプロテクションテクニックが必要なのは言うまでもないが。なんとかクラックをのっこすと、全体をスプーンカットされたみたいなスラブがあった。ビレイ点があると思っていたのだが無いのでがっかり。しかもハンドサイズがさらに上に続いているので、またがっかり。

 

 また、それはあまりにも長く、私はキャメをワンセット、エイリアンをワンセットしかもっていかなかったので、「弾切れ」になってしまった。運よくちょうどよいところに、ピナクルがあったので、そこにスリングで複数の支点を作り、ビレイをした。

対岸から撮ったニードルの写真。

対岸からみたニードルの頭 みんな本当にすごいところにいる。


・5ピッチ目(5.7の続き)10m

 ワイドをこなして、ニードルのピーク。カムが増えたので精神的には楽だ。このあと私たちは、ニードルから15m懸垂して、対岸のフェースに取り付いた。

・6ピッチ目(グレード記載なし)15

 ニードルのピークでビレイをしているときに、ルートを読んで目に焼き付かせておいた。懸垂中にもトポと照らし合わせて、目星をつけておいた。しかし、出だしが悪い。スラブに右足で立ちこんで、ガバをとりに行くのだが、ガバホールドの向きが悪くて、テンションをかけてしまった。しかたなくAゼロ(体感10b)。そのあと草つきを左にトラバースすれば、しっかりした支点が待ってくれていた。

・7ピッチ目(5.945

 これがまた悪い。立ったリッジを中にあるクラックを使いながら登るピッチ。そのリッジには2本グージョンが打ってあったので大いに助かる。ただ、それ以外は普通にカムで支点をとる必要がある。

 クラックの下が狭まっているところに狙いを定め、左手で逆手のハンドジャムを決め、その下のクラックの太さを見極めてカムを選択し、右手でセット。正直、ここまでジャミングに頼ったクライミングをしたことはなかった。

 リッジが途切れると右にトラバース。サビサビのRCCボルトとハーケンが目印。その上にビレイ点。

・8ピッチ目(5.740

 最後のピッチのはず。出だし核心らしく、ちょっとかぶっている上にはガバがありそうだが、疲れてきていたこともあり、自分に負けた。残置のRCCに乗ってしまったのだ。これで都合、ワンテンションとワンポイントAゼロ。オールフリーで全ピッチリードとはならなかった。

 

 ここで大きなミスを犯した。8ピッチ目を登るときに、ビレイデバイスを置き忘れてきたのだ。終了点についたときに、初めてそれを知った。しかたないのでムンターでビレイ。もう終わりだという気持ちが災いしたのか、猛省すべきミスだ。

 

⑤登攀終了後

 ついたところがAピークの頭。ぶっちゃけ、すぐ後ろに登山道が来ていると思っていた。それも、参考にしていた「宮崎の岩場」には下降路が書いていなかったからだ。

 パートナーが終了点について、ロープを外したあとに、この先の道を探ってみた。どうも近くにない。ジオグラフィカで調べたところ、直線距離で50mのところに登山道が走っている。しかし、そこへの経路は絶壁だ。多少遠いが、このまま稜線を進んで頂上から降りてくる登山道が稜線を横切るところまで行ったほうがよさそうだ。※後日調べてみると、Aピークの後ろから懸垂するのが一般的のようだ。

 この道、踏み跡はついているがなかなかのもの。一回、これはノーロープでは危険すぎると判断し、もう一回一本だけロープを出してクライミングシューズに履き替えて登り始めた。すると10mくらいで踏み跡に出た。一回来たことがあれば、ちょっと怖いのを我慢すれば、踏み跡が出てくるということを知っているだろうが、オンサイトでは厳しい。ロープを出した判断は間違っていなかったと思っている。

 

 

 ロープを出したのはそこと、最後の最後登山道に出るところ。急傾斜のスラブを下らねばならない。幸い大きな松の木があったのでそこにロープをかけて、ゴボウで下った。登山道に着いたとき、もうこれで歩くだけで帰れると思ったら、本当にうれしかった。

宿泊場所の「庵」についた後、飲んだくれたのは言うまでもない。

 

4)11月4日

 身体が動かないので登攀はやめた。2日間お世話になった庵を掃除して後にした。

そのあとフェリー乗船までは溜まったA山の洗濯をしたり、別府の町を一望できる展望台に行った。

 

5)Y村感想

 カムをまだ確実にセットできない私はセカンドで登らせてもらいました。セカンドだからと、安心して登れるところは少なく高度感と、ピンの少なさに少し恐怖を覚えました(笑)。

 

 A山さんも書いておられましたが、私も普段クラックは登らないので実際に目の前にクラックが出てきたときはどうやってこれを登ろうかと思いました。でも、とりあえず割れ目に足をはさみ、上にズリズリと身体を上げ、なんとかクリアしました。(後続のパーティーは、ちゃんと手にテーピングを巻いていたので、普段クラックをされている方々のようでした) ※A山注 ジャミンググローブでした。

 

 まだ本チャン経験は数少ないのですが、今まで経験した中では一番高度感があり、岩が立ってるように感じました。A山さんは全てリードだったので、とても大変だったと思います。本当にありがとうございました。

 

 今でもふとあの時の感覚(クラック、高度感、終了点についたときの安堵感)を思い出すことがあります。心に残るルートでした。これからナチュプロの練習して、次に行く機会があるときはどこか一部だけでも、リードができるようにしたいと思います。

 

6)A山雑感 

「ニードル左岩稜を登って」

 久しぶりに精も根も尽き果てた。ここまでになるのは久しぶりだ。ただ家に帰ってきて「新版日本の岩場」(菊地敏之)を読んでショックを受けた。

 

以下引用

「今や宮崎、いや九州を代表するマルチピッチエリアとなっている」

「ただしここはこのような存在ながら、岩場の実際の規模は思いのほか大きくはない。ルートはピッチ数こそ7~8超を数えるものもあるものの、実際の考査は100200m程で、さらにアクセスのあまりの良さなども鑑みると、アルパイン・エリアというより、完全にゲレンデの範疇にある岩場と考えたほうが良いだろう。」 

 

 とにかく、アルパイン・エリアではないというところにショックを受けた。なおもショックを受けたのは、グレード。先の本では下からⅣ級、5.85.75,95.7であり、ルートグレードは2級だ。デジマルグレードの低さもいうまでもなく、この2級というところは衝撃だった。同じ本で2級とされているルートは、剣本峰南壁A2。剣八峰峰フェースAフェース魚高。

 いずれも山岳部一回生の時に初めて本チャンで登ったところだ。ちなみに北岳バットレスの4尾根は3級。錫杖左方カンテは4級下。私が行った最高グレードは屏風東壁ルンゼの5級下なので、足元にも及ばない。なのに、精も根も尽き果てた。これは何故なのか考えてみた。 

 もちろん剣や穂高に比べて山は低いしアプローチは短い。その部分がグレードに影響していることは確かだ。だからそれを省いて考えてみた。

 

①日頃登らないクラックのオンパレードだったこと。

 いままで数多くの本チャンをやってきたつもりだが、ここまで広いクラック、しかもそれが続くのは初めてだった。だいたいキャメロットの3番なんて、いままでの本番では使ったことなかったのに、ここでは複数ほしかった。

②残置がほとんどなく、クラック主体の登りとなること。

 ビレイ点は整備されている。また重要ポイントにはグージョンがあるが、それ以外はカム、ナッツのオンパレード。ハーケンを持参したが使わなかった。いままでカム、ナッツ、ハーケンをほぼ均等に使っていたので、かなり戸惑った。

③トポの終了点から、登山道まで稜線をかなり歩くこと。

 終了点(Aピーク)は14:00過ぎに到着。 頂上から降りてくる登山道にたどり着いたのは1600。そこから、歩いて駐車場を目指さないといけない。

    

 先の菊地さんの文章は以下に続く。

 

「それだからこその面白さ、意義がここにあるとはいえる。現在のほとんどのルートが今様のマルチピッチ・フリーの対象として極めて興味深い内容を持っており…」

 

 まさにこの言葉に落ち着くのかもしれないと思った。来年も比叡山、雌鉾、雄鉾は必ず行きたい。でも、練習方法は真面目に考えないといけないと考えた。

 

 

以上